ある静岡県東部の塾講師のページ

「言っても勉強しない」への対策

 おそらく今も昔も変わらず、よくある保護者の方の悩みには、「いくら『勉強しなさい』と言っても、子どもがなかなか勉強してくれない」というものがあると思います。

 もちろん勉強はした方がいいですし、保護者の方もそれが経験則から分かっているから、お子さんに勉強するよう言うわけですが、それを実行させるのは、単純なように見えてなかなか難しいものです。

 本稿では、そのような保護者の方の悩みを解消する手掛かりとなるよう、私が生徒を指導する中で考えてきたことや、実際に行ってきたことを記していきます。
 


 まずは、「勉強を『しなさい』(『やりなさい』『やらなきゃだめ』)」というように、命令系の発話によって子どもに勉強を促すことは、ほぼ無理ということを押さえましょう。

 親子間に限らず、命令系の発話によって特定の行動を促すことができるのは、基本的には、「その発話者に『絶対的な信頼』が寄せられている場合」か、「発話者に従わないことで、『明確な形での処罰』が下されることが『明白』な場合」であると考えられます。
 前者は「特定分野の権威」などが、後者は「軍隊」などが極端な例としてイメージしやすいでしょう。しかし、親子間の関係を考えれば、どちらのケースも親子間には「通常は」当てはまりません。
 例えば、保護者の方自身、子どもの頃、そして現在、どれだけ親の事を信頼していた(いる)でしょうか。愛情と信頼は単純なイコールの関係ではありません。信頼の背後には、「知識」、「経験」、「周りの評価」、そして何よりも、「過去の実績」が必要です。
 しかも親子間の場合には、子どもは単純に、「知識」、「経験」、「周りの評価」、「過去の実績」などの諸要素を認識、理解する「機会自体」が少ないこと、そして(それ故に)、子どもにはそれら諸要素の価値判断を十分に行えるだけの経験と能力もまだ少ないこと、といった事情も絡んできます。
 また、ある程度前であれば事情も違ったかもしれませんが、少なくとも現代においては、親の言うことを聞かなかったからといって、子どもに何か具体的かつ耐えがたい処罰が下されることも、まずないでしょう。むしろ、あってはいけないという共通認識さえ存在しているように思えます。

 以上を踏まえれば、命令系の発話によって子どもに勉強を促すことができる場合というのは、保護者の方が「子どもが」信頼するに足るだけの諸要素を「不足なく」備えており、且つ、それが子どもに認識できる形で表現されており、さらに、子どもの言語能力を始めとする知能が高く(大人と同等レベル)、自身の経験の少なさを「圧倒的に」凌駕するだけの様々な知識(大人と同等レベル)を子どもが有している、といったケースに限られ、それはおよそ現実的ではないと理解していただけるでしょう。

 
 では、どのような方法を採ればいいのか。
 
様々なものが考えられますが、本稿では、あまり耳にしないもので、且つご家庭でなければ採りにくい方法として、「問答により、『子ども自身に』理解をさせ、納得させる」方法を薦めます。

 既に述べたように、子どもが親への信頼によって、親の言うことに無条件に従うケースというのは、なかなか成立しません。その上、子どもにはいわゆる「反抗期」から来る要素もあるため、一層親の言うことにただ従うというのは難しくなるでしょう。

 であるならば、子ども自身に勉強する必要性を考えさせ、納得させればいいわけです。
 子どもに限らず、人間は自分で考え、納得したことに関しては取り組むことができます。

 子どもが勉強に対しその状態に至れば、保護者の方が「勉強しなさい」と言う必要はなくなり、保護者の方にとっても、子どもにとっても、精神衛生的によい状態になるでしょう。

 ただし、放っておくだけでは、当然、子どもが勉強の必要性を理解することはまずありません(そもそも、放っておいてもそれを理解できる子は、既に自発的に勉強しています)。

 まず、子どもは、現状を認識し理解する能力、未来を予想する能力、そして、現状の理解と未来の予想を結びつける能力が(大人と比べ)十分でない、ということを強く意識しましょう。

 勉強についてだけでなく、お子さんに接する時には、保護者の方自身の視点だけで考え、発言してもうまくいきません。

 生きている時代が違うという点も重要ですが、それ以上に、生きている年数が違い、その間で得られる知識・経験の総量がどうしても違うのです。その知識・経験の総量の差から来る能力の違いを踏まえなければ、保護者の方の言うことは伝わりません。

 ただここで、「じゃあ、勉強をする意味を子どもに教えてあげればいいのか」とならないように注意してください。
 
それは既に述べたような「信頼」や「反抗期」といった要素が絡むために、どれだけ合理的な内容の発話であっても、子どもがそれを受け入れるケースばかりではなく、それがさらに事態を悪化させかねないためです。

 
 さて、本稿で挙げる方法では、「問答」(質問して答えさせる)がメインとなるわけですが、まず理解してほしいのは、「なぜ勉強しないの?」といった質問はしないということです。

 そのような質問をしても、「楽しくないから」「面倒だから」という応答が返ってきて終わりです。
 しかもそれは、勉強をしないことへの答えを出すことで、勉強しないことへの強化となるので、意味がないどころか、マイナスとなります。

 そのため、ありがちな「なぜ○○しないのか?」という質問ではなく、「勉強しないとどうなるか?」「勉強するとどうなるか?」といった、「○○したらどうなる、しないとどうなる」という形の質問をするようにしましょう。

 ポイントは、未来を予想させることです。

 既に述べたように、子どもは現状の認識を踏まえ、将来を予想する能力が不十分です。
 そのため、子どもが思うままに行動すれば、現状の快・不快のみで行動を決定する可能性が高くなります(勉強が快の刺激となっている子は、何も言わずとも勉強をするわけです)。

 また、問答の過程でいきなり「漠然とした将来」について聞いても、あまり意味はありません。
 
そもそも将来を予想する能力が不十分なために、現在の快楽に従って行動するのですから、そんなことを聞いても分かるはずがありません。
 
そのため、勉強をした場合としなかった場合、それぞれについて、「明日どうなるか」、「次のテストでどうなるか」、「そのテストの結果によって何がどうなるか」、「次の成績はどうなるか」、「その成績によって何がどうなるか」といったように、想像しやすい近未来から順に聞いていくことで、現状と未来を結びつけて考えられるように「思考をリード」することが重要となります。

 その際の注意点は、あくまで「子どもに考えさせ、答えさせる」ということです。
 基本的に、子どもの答えに対し、保護者の方の考えを述べてはいけません。それでは、「勉強しなさい」と言う場合とあまり変わりません。
 
質問の仕方によって間接的に意見を述べるようなことも、当然避けましょう。
 あくまで「未来の方向へと」思考をリードするような質問をすることにより、子どもの未来を予想する能力の不足を補助するのです。

 なお、問答の過程においては、すんなり時系列的に進めていける回答ばかりでなく、時系列を先に進めることのできない回答なども出てくるでしょう。
 その場合にも、その回答に対し、意見を述べるのではなく質問をすることで、子ども自身の思考と理解を深めるようにリードしてください。
 論理的に不備がある考えは、特に保護者の方の意見を質問に反映させなくとも、問答の中で子どもが自分でそれに気付きます。なので、特定の答えを誘導しようとは考えずに、あくまで子どもの回答に合わせ、論理的な質問をするよう心がけてください。

 


 以上が、「問答により、『子ども自身に』理解をさせ、納得させる」方法になります。
 読んでいただけば予想できるでしょうが、この方法には時間がかかります。そのため、「ご家庭でなければ採りにくい方法」と述べたわけです。

 私が塾においてこの方法を用いる際でも、かなり簡略化したものを使うしかできません(元々の形で使うのは、勉強する気にさせること自体が主な目的であり、且つそのための時間が十分にとれる家庭教師の仕事の場合のみ)。

 子どもに勉強をする気にさせることについて、学校には学校に、塾には塾に合った方法があります。学校や塾で採ることのできる方法は、それぞれ学校や塾に任せ、ご家庭ではご家庭でしか採ることのできない方法を採ることが、効率や手段の多様性といった観点から重要になります。

 
 また、以上の「問答」を使った方法は、子どもに論理的な思考力を身に付けさせることにも、直接繋がります

 知育玩具の項目などでも書きましたが、講師として生徒の指導をしていると、論理的な思考能力に著しく欠ける生徒が多く見られ、そのような生徒の成績は悪い傾向が強いです。

 思考方法において欠けているところがあれば、それによって導かれる答えは間違っている可能性が高いという分かりやすい因果関係がそこにはあります。

 そのため、この方法を実践する中で、勉強への意欲を引き出すとともに、論理的な思考能力を向上させることができれば、それはお子さんにとって大きな利益となることでしょう。



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