ある静岡県東部の塾講師のページ

子どもに勉強を教える際の心構え

 ここでは、保護者の方が子どもに勉強を教える際に役立てばという思いから、私が生徒へ指導する際に意識していることを(自訓を込めて)書き留めておきます。
 


 実は、私が塾講師業を始めてから1年ほどの間は、生徒から「授業が分かりにくい」「何を言っているのか分からない」などの苦情がそれなりに多くあったようです。
 しかし、あることを意識した上で授業を行うようになってからは、そのような苦情は、(少なくとも責任者から私への注意が来るほどではない数まで)減りました。

 その意識は、主に以下の2点です。

 

①講師業の目的は「知識の伝達」ではなく、「知識を習得させる」ことにある
 これは当たり前と言えば当たり前のことですが、それを意識するかしないかで授業の内容は大きく変わります

 例えば、知識の伝達に重点を(意識的に、あるいは無意識的に)置いている場合、とにかく多くの情報を、漏れのないよう伝えようとし、生徒に対し一方的に話をする傾向が強くなります。
 それを生徒が十分に消化、吸収できれば問題ありませんが、教える側の知的段階と、教わる側の知的段階が同じということは通常あり得ないため、まず間違いなく生徒側は消化不良に陥ります。

 また、講師が一方的に教えるばかりなので、生徒にはその知識を(記憶に残っている内に)使ってみる試行の機会がありません。
 そうすると、生徒はその知識を自分のものとする時間が持てないと共に、自分が理解できているかも分からないまま授業が進んでいくので、授業への意欲を失い、それがまた理解を妨げるという事態に陥るのです。

 
 以上のような状況を避けるためには、講師業の目的は、生徒に知識を習得させることにある、言い方を変えれば、知識を理解させ、その知識を「生徒自身が運用」できるようにすることに、その目的があるのだと意識することが、まず何よりも重要になります。

 そして、そのような意識の下に授業を行うと、実際に生徒に問題を解かせたり、生徒に質問をしたりする時間が多くなっていくでしょう。
 そこで、自分が喋る時間=知識を伝える時間が減ることによって焦らないことが次に重要になります。

 必要なことを全て伝えなければと思うと、既に述べたような一方的な授業となり、その結果、生徒は何も身につけることができない事態に陥ってしまいます。
 
基本的な事項を身につけてもらえればよいと割り切りましょう。
 
基本がしっかり身につけば、生徒自身の力で、学校の授業や宿題などを通じて応用的な問題を解く力を身につけることもできるのです。

 
 また、授業では「型」を重視することも重要です。

 これはつまり、授業で教えた知識は、生徒が自分で運用できなければ意味がないので、自分一人でその知識を思い出したり、使ったりできるように、思いだす手順、問題を解く手順などを理解、記憶させることが必要だということです。
 これができないと、授業その場では分かっても、問題を解けても、すぐに忘れてしまい、テストで点をとることもできなくなってしまうのです。

 

②生徒に「過度に」期待しない
 これは色々な意味を含みます。

 例えば、既に述べたように教える側と教わる側の知的段階が同じということはあり得ない(同じなら講師はほぼ必要ない)ので、「これくらいのことは簡単に分かるはずだ」「これだけ説明すれば分かってくれるだろう」というような期待を持って授業をすると、そのような期待に合わない状況が多々生まれるでしょう。

 講師側の常識や感覚は生徒のそれと違うということを意識し、常に生徒が理解できているかを確認しながら、授業の内容を考える必要があります。

 
 次に、「これくらいのことは自主的にやってくれるだろう」というような期待を持たないことも大切です。このような期待は、特に授業を始めたばかりの頃は基本的に裏切られると思いましょう。

 また、放任でも生徒が勉強してくれると期待せず、宿題などを具体的に出す際にも、「これくらいの量ならこなしてくれるはずだ」という期待も捨て、どんな生徒でもまず間違いなくこなせるような量にまで絞り込んだ方がいいでしょう。
 全く生徒が課題をやらないより、その時々の必要最小限をこなしてくれた方が、中・長期的に見て有意なはずです。

 
 過度の期待とはつまり、相手のことをよく考えずに自身の理想を押し付けていることに他なりません。
 人に理想を押し付けられた側が、それに素直に従うことは稀でしょう。そう考えれば、過度な期待が禁物なことも分かりやすいかと思います。

 また、過度に期待しない分、期待を上回った時には褒めましょう。
 それが生徒のやる気や自主性、自信などに繋がるとともに、教える側の精神をよい状態に保つことにも繋がるはずです。

 


 以上が、私が授業を行う際に主に意識していることになりますが、およそ人が人にものを教える場面では共通して有用なものだと思います。

 保護者の方にとっては、子どもが自分でその知識を「運用」できることがゴールだと考えること、子どもに「過度に」期待せずに、子どものその時々の状況を常に考えながら教えること、それだけで、子どもの理解度は変わると思います。
 そして、子どもは理解できたという経験を積むほど勉強への意欲を増し、自信を得ることとなるでしょう。 
 


 先日、保護者の方に「子供への勉強の教え方がよく分からないので、何か参考になるような本があれば教えてほしい」と訊かれたため、とりあえずということで、藤沢晃司『「分かりやすい教え方」の技術』(ブルーバックス、2008)を薦めましたが、想定読者、価格、入手のし易さなどを考えると、保護者の方が読むものとしても、(私の知る限りでは)最良の本だと思います。

 ちなみに、私が上に記した内容や、それ以外に意識していることも、ほぼこの本の内容をベースにし、アレンジを加えたものです。
 そういった意味で、「基本書」となる本だと思いますので、最初の一冊としてお薦めです。

 その上で、さらに教えることについて関心を持ったなら、数冊、子どもに教えることに焦点を絞った本 【杉渕鐵良『自分からどんどん勉強する子になる方法』(すばる舎、2015)など】 や、予備校講師が書いた本 【安河内哲也『9割は伸ばせる できる人の教え方』(中経の文庫、2011)など】 等を読んだ後に、「コーチング」に関する本 【本間正人、松瀬理保『コーチング入門』(日経文庫、2015)など】 等を読んでみるといいでしょう。

 そこまで行えれば、将来的に、自分の子どもだけでなく、他の子どもに勉強を教える(広い意味での)「先生」や、あるいは保護者の方に勉強に関するアドバイスをする「相談員」のような、新たな道も開けてくるかもしません。

 子どもを育てるというのは、やはりどうしても苦労を伴うものだと思います。そうであるからこそ、その苦労がただ過ぎて終わるものでなく、後の新たな選択肢に繋がることを、私自身人の子として、そして、多くの生徒を見てきた身として、願います。


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