英単語の覚え方というのは、学校では案外(きちんと)教わりません。そのため、「間違っている」とは言わないまでも、非常に効率の悪い方法を採っており、それが英語をできるようにならない原因の1つとなっている生徒が(中高問わず)多いように思えます。
以下で効率的な英単語の覚え方を紹介していきますが、その内容は、『百式英単語』で述べられている方法が基本(というより、具体的な方法論についてはほぼそのまま)となっています。
高校生以上であればそちらを読んでみることをお勧めします。(方法論を学んだ後に単語を覚える際には、他の単語帳を使っても構わないでしょう)
さて、英単語を覚える際にまず重要なことは、「書き取りは極力しない」ということです。
これには理由が主に3つあります。
1つ目は、(受験レベルに限らず)書けなければならない英単語というのは、読めなければならない(=発音と意味が分からなければならない)単語よりずっと少ないということです。これは日本語でも同じで、私たちは日本語について、読める(=発音や意味が分かる)言葉を全て書けるわけではありませんが、自分が書くことのできる言葉は、ほぼ全て読めるはずです。
そもそも言語にとって、口語(口頭での使用)がその基本(原形)であり、文字に表しての使用は、いわば応用的なものなのです。そのため、全ての単語を一々書き取って覚えようとするというのは非常にナンセンスであり、そして、言語の運用能力の獲得をかなり遅らせます。
2つ目は、発音や意味を一旦覚えた単語というのは、スペルも覚えやすくなるということです。
これは、読み方と意味の分かる漢字とそうでない漢字では、前者の方が圧倒的に覚えやすいのとほぼ同じことです。ですから、英単語もとりあえず読みと意味だけをどんどん覚えていくべきなのです。
最後は単純に、覚える際にかかる時間の問題です。
全ての単語を一々書き取って覚え、確認の際にも書き取るような方法を採れば、暗記のスピードはかなり遅くなるでしょう。すると、暗記をしている内に、最初の方の単語からどんどん忘れていってしまう事態がほぼ間違いなく起こります。何の勉強でもそうですが、「忘れてしまったらやっていないのと同じ」ですから、これは致命的です。さらに、忘れてしまった単語を覚えなおす際にも一々書き取りをしていては時間がかかりますから、その間にまた単語を忘れていってしまいます。
英単語の知識が身に着かない生徒というのはかなりの確率でこのループに陥っているのです。
また、時間当たりに覚えられる単語数が少ないと、そのことがモチベーションを下げる要因になりますし、どんどん記憶から抜け落ちていけば、さらにそれがモチベーションを下げます。
ですから、英単語を覚える際には、書き取りは極力せず、発音と意味だけ短時間で一気に覚え、それを何回も(短時間で)確認することが重要なわけです。
英単語を覚える際に次に重要なことは、(既に若干述べましたが、)「速く何度も繰り返す」ということです。
これは、単語を覚えるという段階でも、記憶を維持するという段階でも重要です。
細かい説明は省きますが、人間の脳は、必要性のないことはどんどん忘れていくようにできています。このことは、みなさんのこれまでの人生からも容易に理解できることでしょう。些細な出来事は月日が経つにつれ、どんどん記憶から(知覚できる限りでは)消えていきます。
当たり前のことですが、これは勉強においても例外ではないわけです。案外これをよく分かっていない生徒が多い。「一度確認すれば全て覚えられ、その記憶はずっと維持される」わけがないでしょう。ならば、暗記の段階でも記憶の維持の段階でも、何度も繰り返し確認する必要があるというの は、当然のことです。
人間の脳にとっての必要な情報というのは、主には、①生存に必要な情報、②(状況を含め)強いインパクトを持った情報、そして、③繰り返し脳に入ってきた情報、この3つだと思われます。
繰り返し脳に入ってきた情報は、また使う可能性があるという点から脳に留められるわけです。英単語が生存に必要な情報や強いインパクトを持った情報になるということは、ほぼないでしょうから、記憶するためには、繰り返し脳に入れることで、脳に必要な情報だと見なさせるのが重要であり、また、忘れない内にまた脳に入れ続けることで、その記憶を維持することが重要なのです。
具体的な方法については、基本は以下の通りです。
①単語は100個程度を1セットとし、それを5, 6日程度で覚える。
②その100語程度を15~20分の間、単語をよく見ながら発音し、意味(日本語訳)を2, 3回ずつ読み上げていく。
時間の限り、何周かする。
(例: (tell →)テル、話す・教える テル、話す・教える (prompt →)プロンプトゥ、促す プロンプトゥ、促す … … … (tell →) テル、話す・教える テル、話す・教える … … …)
③読み上げが終わったら、毎回、覚えているかの確認をする(紙か何かで単語の意味の部分を隠して、発音と意味を思い出して言う)。
思い出せなかったものには毎回チェックを入れておく(すぐに思い出せないものは覚えていないものとして扱う)。
④覚えた単語は読み上げる回数を徐々に減らし、覚えていない単語(チェックが入っている単語)は読み上げる回数を徐々に増やしていく。
⑤(5日目、又は6日目の)最終日の確認で覚えていなかったものは紙に書き出し、次のセットに加える。
⑥終わったセットは、2週間程度でもう1度記憶の確認をし、忘れていたものは紙に書き出すなどして、同じ方法で覚えなおす。
さらにそれから1カ月程度でもう1度。そこから先は数カ月に1度でよい。
可能な限り、毎日行ってください。
単語の暗記をやらない日を作っても構いませんが、それは1セット終わった時点で入れた方がいいです。繰り返し入ってくる情報ほど脳は重要な情報として記憶するわけですから、なるべく続けて単語を頭に入れましょう。
また、慣れてきたら、1セットの単語数や時間、読み上げる回数、記憶の確認の方法などは自分で調整しましょう。
十分な単語の知識なしで英語が出来るようになることはありえません。それは、日本語の文法は大体知っている(であろう)中学生が、日本語で書かれている専門 書などを読めないのと同じです。言葉が何を意味しているのかがある程度以上分からないければ、読んでも聞いても、その内容が分かるわけがないのです。
言葉と物の関係には必然性がない(言語の恣意性)ため、覚えるのも決して容易ではないですが、それは何語でも同じです。我々が普段使っている日本語も、これまでの人生で単語の知識 をかなり多く積み重ねていきたら、普通に使えているのです。それを意識し、速く何度も確認することで英単語はさっさと覚えてしまいましょう。
書き忘れていたことを、2つ補足しておきます。
まず、英単語の書き取りについて。
上記のように、英単語を覚える際には、基本的に書き取りはしないのですが、当然、「自分で書けなければならない単語」は、実際にスペルを書けるようにしなければなりませんん。
しかし、そのような単語についても、いきなり書き取りの練習をしてはいけません。
まずは上記のような方法で「音と意味」を覚えてから、書き取りをしましょう。
それは既に述べたように、音と意味を知っている単語は、スペルも覚えやすくなるためであり、それに加えて、「音と意味」を覚えていればそれだけで書ける単語もありますし、「音と意味」を覚える際に、無意識的にスペルも覚えている場合もあるためです。
(言うまでもないでしょうが、「自分で書けなくてもいい単語」は、実際にスペルを書けなくてもよいのです。日本語だと「薔薇」(バラ)、「島嶼」(トウショ)、「眩暈」(メマイ)のような単語がこれに当たるでしょう。そのような単語を自分で書くような機会は、ほぼありませんし、そのような機会があっても、辞書やインターネットなどで確認したりできない場面など、まずあり得ません)
次に、音声CDについて。
『百式英単語』には多くの英単語教材に付いているような、音声を読み上げるタイプのCDは付属していません。発音記号も読みのカタカナ表記も書かれていますし、自分で(速く)読み上げるのが基本となるので、無くても困らないかと思いますが、移動時間等にも英単語の学習をしたいというのであれば、公式のHPから音声ファイルを購入できます。
百式英単語公式HP → 百式英単語ON-LINE
ただ、英単語に対応させる意味(日本語訳)を自分で増やしたりということは当然出来ないので、あくまで学習の補助として使う(あるいは、百式英単語で一気に英単語を覚えた後、音声での学習に使用を限定して、別の英単語教材を使う)べきでしょう。