ある静岡県東部の塾講師のページ

暗記のコツ

 「勉強」(≠研究、学問)の基本はやはり暗記です。

 一時期、暗記を軽視するどころか悪しきものと見なし、学校教育においては「発想」などを重視した授業を行うべきだ、というような風潮がありましたが、その結果は皆知っての通り、惨敗。

 そもそも頭にないことは思考し得ないこと、また、人間の思考のフレームとなる言語自体が、その使用者が「適当に」作り、「合意」に 至ったルールにより形成されていること(=言語の恣意性。つまり、言語は”作り物”ということ)、高校までで習う内容というのはおよそ、人類の歴史の中でそれなりの数の天才と数多の秀才により 蓄積されてきたものの「一部」を再編したものに過ぎないこと、などから考えれば、暗記を否定して「発想」を重視するなど、滅茶苦茶な「主義・思想」だったのです。
 (「発想」を軽視しているわけではなく、「発想」は「暗記」の上に成り立つということです)

 
 というわけで、以下ではタイトル通り「暗記のコツ」を述べていきますが、まずは暗記において重要な姿勢(基本的な考え方)について説明しましょう。
 
 1つ目は、「速く、何度も繰り返す」

 これは、主に以下の3つの理由によります。

①(よほど特殊な人間でない限り)そもそも、1度で全ての知識を覚えられることはない

②繰り返し脳に入ってきた情報は、脳が重要な情報と認識し、記憶に定着しやすくなる

③(よほど特殊な人間でない限り)1度覚えたものも、それを使わなければ忘れてしまう

 
 要は、暗記の効率と知識の維持のために、1回の作業にかかる時間を短くし、何度も繰り返すわけです。

 そのためには、極力、書き取りやノート作りなどをしていてはいけませんもちろん例外もありますが、あくまで「例外」)。それを行うことで格段に記憶の定着率が上がるならいいですが、それは基本的にはないと断言できます(さらに悪いことに、それらは実際の効果がないくせに、「勉強をした気」にさせてしまう)。

 どうしても信じられないなら、適当に100個ほどの英単語を選び、一つひとつ書き取って覚えた場合と、「英単語の覚え方」のページを参考にして、極力書き取らずに覚えた場合を比較してみるとよいでしょう。数日後の記憶数や記憶率を比較すれば、後者の方が高いはずです。ましてや、「自分用ノート」などを作ることにまず時間をかけていては、その差は歴然でしょう(ノートなどを作っている間にも、時間は経過していくことを忘れはいけない)。

 よって、無駄なことはせずに、今ある教材に必要であれば手を加える(必要な知識を書き加える、逆に不要な記述を消す)などして、効率よく作業を行う、その意識がまず重要になります。

 また、「どうせすぐ忘れてしまう」ということも忘れないこと

 1度の作業内でも「速く何度も」繰り返し、1度覚えたものについても、「速く何度も」確認するのです。
 

 
 暗記において重要な姿勢の2つ目は、記憶作業においては、「銘記」と「想起」をセットで行うものだ(「記憶=銘記+想起」)という意識

 銘記とは、要はインプットのことであり、多くの人がイメージするであろう暗記作業がこれにあたります。
 それに対し、想起とは字の如く、想い起こすこと、つまり思い浮かべること、思い出すことです。

 そもそも「覚えている」とはどういう状態であるかを考えてみれば、これはよく理解できます。およそ、「覚えている」状態とは、頭の中に何か知識が入っており、その上で、それを取り出すことができることを意味するでしょう。
 つまり、頭の中に知識を入れるだけでなく、それを使えるようになって初めて、何かを覚えたことになるのです。

 であるならば、暗記作業をする際には、頭に入れた知識を思い浮かべることまでを行う必要がある。
 
頭に知識を放り込んで終わりでは、その知識が実際に使える段階にまで至っていないのです。

 一般的に行われるものの中では、何かを頭に入れた後に、赤いシートなどでその箇所を隠したりして確認する作業が、これにあたります(しかし、そのような想起作業は効率があまりよくない。効率のよい方法は、下の「①パッケージとして(ひとまとめで)覚える」を参照)。

 
 ここで加えて押さえてほしいのは、銘記と想起の時間配分です。

 暗記を不得手とする人は、およそ、銘記にばかり時間をかけて、想起にはあまり時間をかけていないように見受けられる。
 しかし、暗記においては、この想起に時間をかける必要があります。比率でいえば、半々でもいいくらいです。

 それは、思い出せない(=実際にその知識を使えない)のであれば、それは実際には覚えていないことを意味する、というだけでなく、思い出す作業をする中で、その知識はより思い出しやすい形で脳に刻まれるためです。
 また、何をどれくらい覚えているのか、覚えていないのかを把握できるため、効率的に暗記を進められるという点も重要です。

 

 以上の2つ、「速く何回も繰り返す」と「記憶=銘記+想起」を意識して暗記を行えば、それだけで、そうでない場合と比べ、暗記の効率や知識の定着度は上がるでしょう。
 あとは、知識を覚える分野や、自身のレベルに合わせ、自分に適した方法を築いていってほしいですが、以下で、その際参考となるかもしれない内容を何点か示しておきます。
 いずれも、私が実際に使ってきた方法であるため、ある程度実効性は保証できますが、同時に、万人に合うとは限りません。より自分にあった方法が見つかれば、無理に使う必要はありません。

 

①パッケージとして(ひとまとめで)覚える
 暗記の際には、その知識をパッケージとして(ひとまとめで)覚えるとよい。

 これは例えば、一問一答式の問題集での暗記の場面を想定してもらえば理解しやすいでしょう。
 一問一答では基本的に、「○○は何か?」→「×××」というよ うに、問いと答えが並べられていますが、パッケージとして覚えるというのは、この場合、問いと答えの両方をセットで覚えるということでです。

 答えだけを覚え る場合と比べると手間がかかるように思えるでしょうが、パッケージとして覚えると、どの方向から訊かれても答えらえるという大きなメリットがあります。つまり、「Aは何か?」と訊かれれば、「B」と答えられるだけでなく、「Bとは何か?」と訊かれても「A」と答えられるのです。

 また、このように覚えることで、答えだけ覚える場合に比べ、記憶に残りやすくなるという点も重要です。というのも、問いに対する答えだけ覚える形よりも、それをセットで覚えた場合の方が、知識の繋がりがそこに生まれるために覚えやすく、且つ思い出す際の手がかりが多くなるのです。

 説明のためにとりあえずは一問一答での暗記のケースを挙げましたが、これは暗記全般に使える方法です。

 例えば、教科書や参考書で暗記作業をする場合には、覚える箇所を隠すなりして覚えるだけでなく、それと関係する箇所をまとめて(パッケージで)覚える
 具体的には、教科書や参考書の該当箇所を読んだ後、それを見ないで、(要は文章で)思い出してみる思い出せないのであれば、既に述べたように覚えていないということなので、また該当箇所を何度か(ここでも「速く何回も」を意識すること)読んだ後に、それを見ずに内容を文章で思い出してみる。
 別に書かれている文言そのままでなくても、内容が合っていればいいですし、むしろ自分で思い出しやすいように覚えるのがコツです。それが出来る状態になれば、それは間違いなく覚えている状態であり、その知識はどんな訊かれ方をしても使えるものになっているでしょう。

 もちろん、数学などでもこの方法は有用です。
 数学というのは、公式や解法だけを覚えても出来るようにはなりません。公式や解法を問題のパターンとセットで(パッケージで)覚えることで、出来るようになるのです。

 そのためには、問題演習を行う中で、「典型的なパターン」を選び出し、「これこれこういった問題は、まず○○をし、次に××を使って~~を求める。この段階で、△△という 点で□□のミスをしないことが重要だ。最後に—-をすれば終わり。」といったように、解く手順(とポイント)を問題と対応させて覚えるのです。

 そして、同じような問題を解く際には必ず、まず頭の中でその手順を思い出してから解く
 そうすることで、問題を解く際にミスを減らせるだけでなく、その記憶がその度に記憶に定着していくという大きなメリットが生まれます。

 なお、私自身は高校時代にあまり意識せずにこの方法を使って数学の勉強をしていましたが、それ以降も、公務員試験の経済原論(ミクロ、マクロ経済学)の勉強をする際などに活用し、得点率を上げていった経験があります。おそらく、物理などでも同じように使うことができると考えられるので、文系・理系問わず、様々な科目で 使える暗記法だと言えるでしょう。

 

②負荷式暗記法
 何かを暗記する際には、その分野で1つだけ覚えればそれで終わり、ということはほぼあり得ないでしょう。
 そのため、ある分野の暗記作業をする際には、いくつかの知識をまとめて覚えることになるのが普通です。

 その際に、この「負荷式暗記法」では、想起の段階で覚えていない知識が出てきた場合、その暗記をしている分野全てを最初から確認し直すという方法をとっていきます。

 例えば、ある分野で覚えるべき知識が10個あったとします。
 まず銘記の段階で頭に叩き込み、想起の段階に入る。そして、5つ目の知識が思いだせなかったら、その場合、 その5個目の銘記をその時点で行い、そして、また1つ目から想起を行うのです。

 そのように作業を進め、最終的には10個の想起が出来るようになって終わ りとなります。

 この方法は単純ですが、当然エネルギーを使います。そのため、「負荷式」という名前になっています(私が今、勝手に命名しました)。若い頃はともかく、今となっては全ての暗記をこの方法で行うのはさすがにしんどいので、 切羽詰まった場面でない限りは使いませんが、やはり今後も使う機会はあるのでしょう。

 なぜそんなしんどい方法を使うのかといえば、当然、この方法にメリットがあるためであり、それは以下のようなものになります。

 ①全てを想起できるまで一から想起のやり直しなため、その負荷を避けるために必死に覚えようとする

 ②最初の方は何度も想起を行うことになるため、暗記においてありがちな、「進めていくうちに最初の方を忘れてしまう」という事態を避けられる

 ③繰り返していくうちに、それぞれの知識に繋がりが生まれ、覚えやすくなっていく

 ④ ③の効果により、意識せずとも、知識をパッケージとして覚える場合がある

 
 若いうちは体力も気力もあるでしょうから、学生には積極的に使ってもらいたい方法です。

—18/01/22:追記—
 この暗記法は、「記憶の維持」という点でも有利に働きそうです。

 アメリカの心理学者である Jeffrey D. Karpicke と Henry L. Roediger III が行ったある実験*では、テストで満点を取ることを目的に単語学習をさせたとき、毎回“全ての単語を”テストしたグループと、“間違えた単語だけ”テストしたグループでは、全ての単語を覚えるまでの繰り返し回数は変わらなかったものの、1週間後に同じテストをすると得点に2倍以上の差が出ました。
 予想がつくでしょうが、毎回“全ての単語を”テストしたグループの方が正答率が高かったのです。

 これは、想起する回数が多いほど、長期的な記憶として残りやすいということを示すものでしょう。

 * Jeffrey, D. K. & Henry, L. R. III. (2008) The Critical Importance of Retrieval for Learning.
————————

 

③問題集を使った勉強の場合
 問題集を使ってテスト対策などを行う場合、当然、同様の問題がテストなどに出た際に、それを解くことができる状態を目指すわけですが、問題を1問1問、毎回解いていくのでは時間がかかりすぎます。それでは、とても全ての科目で効率よく勉強を進めることはできないでしょう。

 そのため、何らかの工夫が必要になるわけだが、私が生徒に薦めるのは以下のような方法です。

①まずは普通に問題を解く

②答え合わせの段階で、間違った箇所を訂正するだけでなく、その問題を解くのに必要な知識や、その問題を解く手順を書き込む

③次に確認する際は、問題だけを見て、その問題を解くのに必要な知識と、解く手順を思い出す(想起)

④書き込みの入った答えを確認し、必要な知識と手順があっているかを確認する 

⑤間違っていたらそれを覚える(銘記) 

<①~⑤の流れで、問題の確認を進める(可能なだけ何周も行う)>

⑥試験が近くなったら、不安の残る問題、ミスしそうな問題だけ実際に解き直してみる

 
 このような方法をとることで、短い時間で問題を何度も確認することができるようになります問題集を使った勉強の場合にも、「速く何回も」の暗記の原則に沿った勉強法を採るわけです。

 私自身、この方法で、十数科目の知識が必要な公務員試験の筆記試験を突破した経験があります。
 1科目にかけられる時間が少ない時ほど有効な方法と考えられるので、科目数の多い試験に対応する際にはぜひ参考にしてください。


-Sponsered Link-
ある静岡県東部の塾講師のページ